連載コラム『ティーブレイク』(25)
2025.07.11 技術研究、コラム
教育は国家百年の大計
7月3日に参議院選挙が公示された。アメリカとの関税交渉、米・ガソリン・食料品等に代表される物価高、記録的な猛暑・豪雨等の気候変動、少子高齢化、医療・介護の問題などが山積し、さらにガザ・ウクライナの戦争も終わりが見えない中、今後の日本の行く末を考えると大変に重要な国政選挙である。国民として日本の舵取りを任せられる政党・政治家を選ばなければいけない。
先の大戦時の話であるが、日本海軍の士官(指揮官)を養成する学校として、海軍兵学校(以下、兵学校)があった。心技体を兼ね備えた日本のトップクラスの若者が集まってきた学校であるが、その校長を昭和17年10月から19年8月まで務めた人物がいた。
昭和17年の後半は、前線では米軍と激しい戦いを繰り広げながら、次第に旗色が悪くなり始めた頃である。兵学校では、当時敵性語であった英語を受験科目に入れていたが、英語を受験科目から外している陸軍の学校の方に若者が流れていた。こうした状況を受け、兵学校では受験科目から英語を外そうとしたが、校長は英語ができない海軍軍人は必要ないとして受験科目から外さなかった。また、戦時体制下ということもあり、英語含めた普通学(数学、力学、物理学など)の時間数を減らし軍事学を増加させようとしたが、校長は普通学の削減を認めないとともに、教育年限の短縮にも抵抗し続けた。そのおかげでという表現が適切かどうかわからないが戦場に出る前に終戦を迎えた学生から戦後の日本を牽引する各界のリーダーが輩出されることになった。
校長は、井上成美という海軍の軍人であるが、昭和17年に既に日本の敗北を予想し、戦後の日本復興に向けた若者の育成、軍人としての教育だけでなく、ジェントルマンとしての教育を兵学校で行っていたのではないかと思われる。
時の権力者の方針に逆らってまで、日本の行く末を考えた行動ができる人物を今の日本も必要としているのではないか。党利党略や目先のことにとらわれない人物を国政の場に送り出したいものである。
昔から、人の育成・教育は国家百年の大計であるとよく言われるが、現代社会においても人的資本経営の重要性が叫ばれている。
我々の業界でも、同様に人の育成は重要な経営課題である。高度な専門性を有するプロの技術者を育成しなければならないことは当然であるが、それとともに社会人としての育成も必要である。
場当たり的ではなく、十年後、二十年後の組織、社会を見据えた人の育成を行いたいものである。
2025年7月3日 TTC参事 菊谷 彰