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連載コラム『ティーブレイク』(14)

2023.09.04 技術研究、コラム

連載コラム『ティーブレイク』(14)

 

 ナッジって何?

 

 先日、『ちょっとした工夫で人々の行動を変容させる手法』というキャッチコピーに釣られ、「ナッジ(nudge)」に関する講演会を聞く機会がありました。参加動機は不純で、最近、組織改革、改善改良、行動変容などという言葉に接する機会が多いことから、楽をして何かいいヒントが得られないかと考えた次第です。

 私は、ナッジという言葉を聞くのは初めてでしたが、行動経済学や社会心理学の分野ではよく知られた考え方であり、ピアノの階段(階段を上り下りすると音がすることから、エスカレーターではなく階段で楽しみながら健康増進を図ることができる)、音のするゴミ箱(ゴミを投げ入れると音がすることから、面白がってゴミをゴミ箱に入れることを促す)など、興味や関心を刺激する働きかけ(ナッジ)が既に社会に取り入れられているそうです。講師曰く、教育、医療、行政などいろいろな分野で広まっているとのことでした。

 いや、確かに、ちょっとした工夫で社会にとって望ましい行動を促すことができれば、それは素晴らしいことだと感心したものですが、ちょっと待て、人間そうはいかない。自分の利益のためだけにこの考え方を悪用(ちょっと言葉は悪いが)することも可能ではないかと、思いますよね。
 はい、その通り、ナッジに対し「スラッジ(sludge)」という考えがあるそうです。『行動経済学的知見を用いて、人々の行動を私利私欲のために促したり、よりよい行動をさせないようにする』という考え方で、タイムセール(時間制限をかけ正常な判断をさせない)、入会している組織からの退会(退会を躊躇させる言葉やアイテムの提示)、契約の解約し忘れ(解約しにくい操作手順)など、人間の心理をうまく利用(悪用?)したシステムが導入されているとのことでした。

 我々環境調査や分析の業界では、スラッジの方が馴染みのある言葉であり、こちらの考えの方がすんなり理解できてしまいそうですが、いやいや、ここはナッジの考えへの理解を深め、いろいろ活用してみたいものです。

 金銭的インセンティブを用いることはナッジの考えに反しそうですので、資格取得を奨励金支給で促す方法はよろしくないかもしれません。やはりここは、資格取得している先輩や上司が輝かしく働き、活躍する姿を新人に見せることが大切では。また、いきなり難易度の高い資格に挑戦させるのではなく、身近な資格から挑戦させ、自然に力をつけながら難関資格に合格するよう指導するのも一つの方法ということになるのでしょうか。自分自身が選択する自由を残しながら、ある方向に導き、背中を押してあげましょう。

 安易にスラッジを選択せず、ナッジの考えを組織に広めてみてはいかがでしょうか。

 2023年9月4日  TTC参事  菊谷 彰