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連載コラム『ティーブレイク』(11)

2023.03.27 技術研究、コラム

連載コラム『ティーブレイク』(11)

 

 歴史から記録・情報を考える

 もう1週間もすると4月となり、新しい年度が始まります。学生は、新学期を迎え新しい教科書を手にすることになりますが、最近の歴史の教科書を見て、えっと思う記述が目に飛び込んできました。

  『聖徳太子は厩戸王?』、『鎌倉幕府成立は1185年?』。

 なんだ、これは?自分が学生時代に習った事項と異なる歴史を最近の学生は学んでいる。教科書で歴史の改ざんが行われるとは何ということか、もう日本も終わりだと嘆いたが、これは歴史の改ざんではなく、時代とともにいろいろな記録・文書が発見され、新しい評価・解釈により教科書が見直されたとのことでした。そうであれば、事実は変わらないが歴史が変化していくことはある意味歓迎すべき事項と理解すべきか。

 あるテレビ番組で、桃太郎伝説についてこんな解説をしていました。

 『江戸時代、ある地域では桃太郎は盗人であった』(その理由は鬼が所有する宝物を桃太郎が奪い取るからとのこと)、反対に『太平洋戦争中は軍に利用され、鬼を米英に、桃太郎は鬼を退治する日本軍に見立てた』そうです。歴史は、その時代の権力者の都合のいいように記述され、書き換えられるということをよく耳にしますが、桃太郎の事例も時の権力者や世相により見方が変わり、利用された典型かもしれません。
 記録や情報に関して、太平洋戦争中にこんな話があります。日本軍は情報や記録(損害、戦果)の隠蔽や改ざんを行い、戦局は悪化の一途を辿っているにもかかわらず、記録上損害は1/5以下、戦果は6倍以上になったそうです。国民は最後までこの事実を知ることもなく、敗戦を迎えることになりました。情報操作・隠蔽、記録改ざんは、恐ろしい結果を招きます。
 反対に、今の世の中、情報は溢れフェイクを含めた情報が入り乱れています。自分にとって都合のいい、心地よい情報のみ受け入れていれば判断を間違えることになるでしょう。

 我々、測定分析機関・業界でもいろいろな情報を扱います。お客様から入手する情報だけでなく、分析や調査方法に関する情報、法令に関する情報、工業製品であれば原材料や製造工程などの情報も必要になります。これらの情報をもとに、分析や調査を行い、結果を導き出します。情報の出典元、妥当性、信ぴょう性など、確かな状況の中で証明書を世に送り出し、その結果に責任を持たなければいけません。

 新しい年度となり、どの業界も新入社員を迎えることになると思いますが、情報が氾濫する世の中だからこそ、記録や情報の持つ意味をしっかり理解させていく必要があります。この先、今流行りの超高性能人工知能(AI)チャットGPTが作成した論文を情報源とする時代が来るのでしょうか。さて、皆さんどう対応しますか?

  2023年3月27日  TTC参与  菊谷 彰